学術大会1日目の様子

暑い暑い真夏の大阪に非常に多くの皆様にお集まりいただき、7月19日の前夜祭から3日間に渡りしっかりと学びを深めることが出来ました。
前回よりも多い、1038名の皆様にご参加いただき、第7回日本在宅薬学会学術大会は盛会裡に終了しました。

プログラム内容

    
開会宣言
7月20日(日)9:30~9:35 1階 大ホール
演者

菅野 彊(大会会長

大会会長講演「ものごとはどう動くのか?-在宅薬学のAuf heven を目指して-」
7月20日(日)9:35~10:05 1階 大ホール
座長

狭間 研至(一般社団法人日本在宅薬学会 理事長

演者

菅野 彊(大会会長

ものごとは、必ず変化していく。変化しないのは“ものごとは変化していく”という真理だけである。これは、私の考え方の基本である。変化して欲しくない人たちから見れば、これは歓迎できない考え方かもしれないが、ものごとは確実に変化していくのである。
 世の中は“相反する二つのものごとのせめぎ合い”と解釈できる。そのせめぎ合いは対立軸を中心に各々の量的拡大を繰り返しながら、ひとつの変化に到達しようとする。どちらかが、せめぎ合いに勝ったとしよう。そのとき、対立する二つのものごとは、一つのものごと、つまり新しい質に変化していく。
 この日在薬としての量的拡大は、実に見事な展開を見せている。理事長狭間研至は、インストラクター、ディレクター、エヴァンジェリストというリーダーの組織をつくり、そこが組織化、理論化の中心として活動しだした。そして日本在宅薬学会は、いまさらに量的拡大を繰り返しながら、次の Auf heven を目指しているのであると講演をいただきました。
基調講演「地域包括ケアと薬剤師・薬局の役割」
7月20日(日)10:10~11:30 1階 大ホール
座長

武藤 正樹(国際福祉医療大学 教授

演者

唐澤 剛(厚生労働省 保険局長

 地域包括ケアシステムとは、介護が必要になっても、住み慣れた地域で自立した生活を送ることができるよう、住まいを中心に医療、介護、予防、生活支援サービスを包括的かつ継続的に提供するシステムである。地域包括ケアシステムは、「地域に根ざした」「医療・介護の包括ケア」であり、「地域に根ざした」という意味は、よそから持ち込まれたものではないもの、その地域に芽生えたものであることを意味する。「医療・介護の包括ケア」とは、医療と介護が利用者の視点から一体的に統合されたものということを意味する。
 地域包括ケアにとって「顔の見える関係」は極めて重要である。連携は、患者や利用者が送られてきてからではなく、連携は先にシステムとして出来上がっていて、そこに患者や利用者が送られてくるのでなくてはならない。関係するスタッフが、お互いによく知っていて普段から交流があることが重要である。「顔の見える関係」は「信頼の基盤」である。このことにより、安心して次のサービスステージに移行することができ、利用者が今後のサービス利用の見通しが立つことにもなる。
 薬剤師と薬局は、在宅医療・介護等における服薬指導など地域包括ケアの拠点として、利用者の視点に立ったサービスを提供して行くことが求められると講演していただきました。
ランチョンセミナー I
認知症診療における薬剤師への期待
7月20日(日)11:45~12:45 1階 大ホール
座長

野原 幹司(大阪大学歯学部附属病院医長

演者

金田 大太(大阪赤十字病院 神経内科部 副部長 

 認知症の薬物療法は、生活習慣病に対する薬物療法とは異なる。脳血管保護を目的とした予防薬ではなく、「終末期に必ず向かう疾患」の薬物療法である。自分が認知症になったとき、どんな医療を受けたいのかを想像することが解決の糸口になろう。「飲みたい薬が飲みたいタイミングで処方されるために」何が必要なのか。認知症の人は多かれ少なかれ「自分で自分を何とかしたい」という思いを抱いている。そして、この思いに応える、いわば「自助」の援助こそ、われわれ医療者に求められる大切な役割である。
 発症初期の気づき・見守り、ひいては今後、より大きな問題となる在宅での看取りにつなげていくためのネットワーク構築が求められる。「認知症であるから」と隔離される・社会から疎外される環境が残り続け、「この薬を飲んでいることは恥ずかしい」という風潮が残っているままでは、薬効が最も期待される時期を逃し、その後必要とされる適切なネットワーク作りの大きな支障となってしまう。患者を取り巻く医療従事者が同じ理解を持ち対応に当たることが望ましい。患者さんには、すでに自然発生的に取り巻いている医療ネットワークが存在している。その中心には、現在の「街の風景」に欠かせないものとなった保険薬局が必要不可欠であり、さらなる発展が求められる。訪問薬剤師の今後の活動は、認知症診療を大きく変えていくと確信していると講演していただきました。
ランチョンセミナー II
高齢者にパッチを上手に使うコツ
7月20日(日)11:45~12:45 2階 小ホール
座長

松山 賢治(近畿大学薬学部教授

演者

塩原 哲夫(杏林大学医学部附属病院 皮膚科教授

 皮膚の乾燥度合を決めているのは、皮膚の最外層を占める角(質)層中の水分である。この部分の水分が多ければ皮膚はシットリとし、少なければカサカサとなる。この角層の水分量は、様々な因子により決められている。水分を保持する能力のある角層中の脂質や保湿因子の量と質、汗の量、生活環境の湿度などが、その因子である。一般に高齢になると角層が水分を保持する能力が低下するため、湿度の低下する秋〜春にかけて著明な乾燥状態になる人が多い。湿疹などの治療に用いられるステロイド軟膏は、炎症は押さえても、この角層水分量をむしろ低下させ皮膚を乾燥させてしまう。さらに高齢者では、入浴のたびに石鹸で体を擦る習慣を止められない人が多く、ますます皮膚は乾燥することになる。
 症状が出てから治療するより、症状が出る前に予防しておくことが重要なのは当然である。となれば答は簡単である。パッチを貼る前に、保湿剤を塗って皮膚の水分量を上げてあげれば良いのである。しかし、これが簡単そうで実はちょっとした工夫が必要なのである。保湿剤も種類が多くあるが、この目的に合うものを選ぶ必要がある。中には保湿剤といわれても、実際に保湿作用が殆どないものも少なくない。効果のある保湿剤をたっぷりと塗る事が重要である。塗るタイミングもまた重要である。湯船にゆっくり浸かり、角層に十分な量の水分を吸収させた後に、保湿剤を塗ることが大事なのである。この時、決してゴシゴシと擦り込んではならない。厚くベッタリとのばしてあげることがコツなのである。パッチを貼る一週間前から、保湿剤の外用をしっかり行うことで、パッチによるかぶれは1%以下になり脱落者は劇的に減ったのであると講演いただきました。
ランチョンセミナー III
チーム医療における薬剤師への期待
7月20日(日)11:45~12:45 2階 さくら西
座長

中嶋 幹郎(長崎大学薬学部教授

演者

大久保 清子(福井県済生会病院参与、日本看護協会副会長

 私たちをとりまく社会で、いま何が起こっているのでしょうか。団塊の世代が75 歳を迎える2025年問題は、日本の社会保障における大きな課題です。しかし、一方で多くの高齢者や慢性疾患患者がケアを必要とする社会は、単純に病人の数が増えるということではありません。注目すべきは、病人のタイプが変化するという点です。すでに変化は始まっています。5 疾患である、がん・脳卒中・急性心筋梗塞・糖尿病・精神疾患への対応。さらに慢性疾患である、肝疾患におけるインターフェロン治療、 腎疾患における透析・腎不全治療 、呼吸器疾患における喘息・COPD・肺炎 、循環器系疾患における心不全・高血圧、筋神経疾患におけるリウマチ・ALS 等々。これらは、病気になってすぐに死を迎えるのではなく、何度かの入退院を繰り返しながら、病気を抱えつつ医療を受けながら生活していく。この闘病期間はこれからさらに長くなり、介護や認知症も含め複数の慢性疾患を抱えながら暮らす超高齢者が、益々増加することが予測されます。
 地域包括ケアの構築のためにも、また国民の皆様の「住み慣れた地域で最後まで暮らし続けたい」という希望を実現化するためにも、暮らしと医療を切り離さずに支援していく必要があります。これらのことを鑑みると、これからの医療サービスの提供は「要介護高齢者の在宅での薬物療法」の支援が重要となり、「適切な配薬と服薬支援」や「個別対応」など薬剤師の専門性の提供が期待されています。
 高齢者社会において、個々人にあった医療サービスを提供していくには、多・他職種と協働して、お互いの専門性を発揮しチームで取り組んでいくことが重要です。つまり、病院では入院前から退院後の在宅での生活を視野に入れた医療サービスの提供です。たとえば、在宅での患者の状況を予測した服薬管理指導や生活状況を踏まえて、使用薬剤の形状の検討などです。患者の生活状況の情報については、看護職は把握しています。お互いに情報を共有しながら連携し、患者の生活を支える医療の実現を共に目指す必要があると講演をいただきました。
ランチョンセミナー IV
多職種協働と薬剤師 -『地域ケア会議』のねらいについて-
7月20日(日)11:45~12:45 2階 さくら東
座長

平井 みどり(神戸大学医学部教授、附属薬剤部長

演者

木村 隆次(青森県薬剤師会長

 平成26 年6 月に可決成立した医療・介護一括法案(正式名=地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律案)は、平成25 年12 月に可決成立したプログラム法の規定に基づき、高度急性期から在宅医療・介護までの一連のサービスを地域において総合的に確保することで地域における適切な医療・介護サービスの提供体制を実現し、患者の早期の社会復帰を進め、住み慣れた地域での継続的な生活を可能とすることを目的にしている。
地域包括ケアシステムの構築
○地域支援事業の充実
①在 宅医療・介護連携の推進 : 具体的には、介護保険法の地域支援事業に位置づけ、市町村が主体となり、地区医師会等と連携しつつ、取り組む。
②認 知症施策の推進 : 「認知症の人は、精神科病院や施設を利用せざるを得ない」という考え方を改め、「認知症になっても本人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で暮らし続けることができる社会」の実現を目指す。この実現のため、新たな視点に立脚した施策の導入を積極的に進めることにより、これまでの「ケアの流れ」を変え、むしろ逆の流れとする標準的な認知症ケアパス(状態に応じた適切なサービス提供の流れ)を構築することを、基本目標とする。認知症施策を推進するため、介護保険法の地域支援事業に位置づける(「認知症初期集中支援チーム」の設置、 認知症地域支援推進員の設置)。
③生 活支援サービスの充実・強化 : 高齢者の在宅生活を支えるため、ボランティア、NPO、民間企業、社会福祉法人、協同組合等の多様な事業主体による重層的な生活支援サービスの提供体制の構築を支援。
④地 域ケア会議の推進 : 「地域ケア会議」(地域包括支援センター及び市町村レベルの会議)については、地域包括ケアシステムの実現のための有効なツールである。
 具体的には、個別事例の検討を通じて、多職種協働によるケアマネジメント支援を行うとともに、地域のネットワーク構築につなげるなど、実効性あるものとして定着・普及させる。このため、これまで通知に位置づけられていた地域ケア会議について、介護保険法で制度的に位置づける。つまり平成27 年4 月から開催義務化になる。
 この「地域ケア会議」のねらい、薬剤師会、薬剤師の役割について講演されました。
【日本臨床腫瘍薬学会共催】シンポジウム I
「薬剤師3.0時代にこそ実現できる薬薬連携とは」
~情報連携を基本にした薬学的アセスメントの共有~
7月20日(日)13:15~15:15 1階 大ホール
座長

平井みどり(神戸大学医学部教授・附属病院 薬剤部長

演者

和田 敦(神戸低侵襲がん医療センター薬剤部 主任
田崎 恵玲奈(さかい薬局グループ 薬剤師部長
手嶋 無限(開生薬局 管理薬剤師
平子 庸志(株式会社アインファーマシーズ 在宅医療部長
吉村 千恵(大阪赤十字病院 呼吸器内科 副部長

和田 敦(神戸低侵襲がん医療センター薬剤部 主任

 高齢化の進む本邦において「がん」は避けては通れない問題である。本邦においてがん治療は外科的治療を中心に発達してきたが、薬物療法や放射線療法の進歩により、集学的治療が主流となっている。これは、各分野の進歩により高度な専門性が要求されるようになったことも影響している。
 がん薬物療法においても、分子標的薬に代表される新しい機序を持った薬剤の登場や新しいレジメンの開発が進み、治療効果は飛躍的に向上している。
 今後は病院薬剤師と保険薬局薬剤師が同時期に同じ患者に関わるというこれまでに無い状況となる。従って、役割分担を含め新しいかたちの連携を模索していく必要があると発表いただきました。


田崎 恵玲奈(さかい薬局グループ 薬剤師部長

 「薬剤師が変われば地域医療戦略が変わる」というアイディアに感銘を受けた同志は数えきれない事だろう。しかし、それを実際に保険薬局の現場や病院・クリニックとの関係に落とし込むことは決して容易ではない。2010 年4 月の医政局長通知「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進」や「共同薬物治療管理」、2013 年6 月に閣議決定された「地域に密着した健康情報の拠点として、セルフメディケーションの推進のため薬局・薬剤師の活用を推進する」日本再興戦略、2014 年1 月「薬局の求められる機能とあるべき姿」。今まさに保険薬局という一つの業種から地域に本当に必要とされる業態への変化が求められている。一方でそれを阻む要因として未だ大きく存在感を示す「大きな見えない壁」。我々は壁があるから出られない、ではなく、突き破り、薬剤師が医療人として何をすべきかの決意のもと一人でも多くの仲間を巻き込んで行動する必要がある。
薬局提案型在宅100 %の店舗における、薬局内連携の意義とそこからつながった薬学的アセスメント事例を発表していただきました。


手嶋 無限(開生薬局 管理薬剤師

 地域での在宅支援は限りあるヘルスケア資源を“どのように効率的・効果的に活用するか”の、地域の機能分化やトリアージの仕組みが重要であると考える。超高齢社会のわが国の保健医療分野では、在宅支援のニーズは今後益々高まることが予測されており、薬剤師はフィジカルアセスメント能力などの新しいスキルを修得し、「医薬品の適正使用」、「医療安全の確保」、さらには「地域での見守りの強化」の一翼を担っていく必要がある。近年、情報通信技術(ICT: Information andCommunications Technology)ネットワークやクラウド技術を活用した情報インフラ整備が行われ、地域で得られる医療情報が飛躍的に増えてきている。このように、医療・福祉・介護などによる従来から在宅支援に関わる多職種によるヒューマンネットワーク構築に加え、工学・情報などの様々な多業種との連携・協力により、新たな展開が出て来ている。
 訪問薬剤師としての様々な介入事例を通して、地域ぐるみの在宅支援に向けた課題や今後の展望について講演をいただきました。


平子 庸志(株式会社アインファーマシーズ 在宅医療部長

 患者が住み慣れた地域で生活を続けるためにはシームレスな連携によるサポートが重要である。
 在宅医療における医療・介護連携については在宅医療連携拠点事業等で実施・検証されており、その有効性についても証明されている。しかしながら在宅医療における主な治療が薬物治療であるにも関わらず、薬薬連携が議論されることは少ない。これは従来の薬薬連携が主に勉強会や病院からの情報提供等の一方向の情報提供であることが問題だと考えられる。患者ケア向上に寄与する薬薬連携には情報提供が双方向で行われる必要があるものの有効なツールは少ない。そこで我々は連携ツールとして病院内で活用されている千葉県共用脳卒中地域医療連携パス薬剤シートと訪問薬剤管理指導報告書に注目し、実施・検証を試みることにした。
 薬剤シートは脳卒中症例における薬剤情報提供の有用なツールである。入院時等の急性期に用いる薬剤シートは広く普及されているものの、地域生活期および回復期等の在宅医療に用いる薬剤シートの普及は進んでいない。薬剤シートは脳卒中症例に限らず他疾患においても薬薬連携の情報提供ツールとして有用であり、在宅療養に移行する患者への積極的活用が望まれる。薬剤シートは保険調剤の個別最適化を可能とし、多職種連携情報ツールとしての活用も可能である。この薬剤シートを有効に使用することで薬物療法及び患者ケアの質の向上に繋がると講演していただきました。 


吉村 千恵(大阪赤十字病院 呼吸器内科 副部長

 呼吸器内科では吸入薬を治療薬とする疾患を多く診る。その効果は吸入手技を含むアドヒアランスによるところが大きく高齢者や認知症、合併症のある患者にはさらに指導に難渋する。
 当院では2000 年より喘息教室を開催、2004 年に院外処方が導入となった。院外処方導入後「吸入指導依頼書」を作成したが入院患者の吸入手技は病院での指導しているものと大きく異なっていた。2008 年門前薬剤師対象のアンケート調査でその理由を理解した。治療変更をした方が良いと感じた時の対応について「直接主治医に相談する」人は2%のみだったのだ。しかし連絡ツールがあれば活用したいと96% が回答、望みを持った。連携には双方向に連絡を取り合う必要があると服薬情報提供書を作成。2008 年7 月より喘息患者を対象に使用を開始した。さらに病院と保険薬局間の理解度を統一する目的で2010 年から病薬連携の会を開催。2013 年より基礎講習とスキルアップをめざしたフォローアップ研修、多職種連携の会を開催している。
 服薬情報提供書を活用した双方向の連携は役立つと90% を超える薬剤師の評価を得、さらに「吸入指導服薬情報提供書」の作成に至った。吸入指導服薬情報提供書を使用したロールプレイ形式の講習会は講演会形式よりも理解度は向上し、当院と連携を行っている保険薬局薬剤師が再吸入指導をした喘息患者の2012 年の調査では指導前の喘息コントロールテストにおいて20.3 点、再指導後21.7 点と有意な改善がみられた。これら取り組みは全国レベルに広がり2013 年からは吸入療法のステップアップをめざす会として活動を開始している。
 薬剤師の職能を生かすためには職種間コミュニケーションの改善が課題であると講演をいただきました。

狭間研至 薬局経営緊急セミナー
~薬局3.0から、薬剤師3.0。そして、薬局経営3.0へ!~
7月20日(日)13:15~14:45 2階 さくら東
演者

狭間 研至(ファルメディコ株式会社 代表取締役社長

医療機関の近隣に薬局を出店し、処方箋を持った患者さんが半自動的に来店され、それに基づいて、処方監査・疑義照会を行ったのちに正確・迅速に調剤、的確な服薬指導とともに、お薬をお渡しし、これら一連の行動記録を薬歴に記載するというのが、いわゆる「調剤薬局」の基本的なビジネスモデルだと、私自身は理解してきました。
ビジネスの基本は、売上を上げて、経費を抑えることですから、たくさんの患者さんが訪れる「好立地」な薬局を作り、そこでの調剤業務を効率化することが重要になります。
医療は地場産業であり、地域に密着した薬局が、地域での様々なネットワークを駆使して「好立地」をおさえ、企業としての体裁を整え、新卒薬剤師を採用し教育することで、成長していくことがいわば薬局経営の王道だったのではないかと思います。
しかし、上場企業も複数出現。システマティックな営業、採用、教育活動を組織として行うようになるにつれて、個人経営の薬局はその規模の大小を問わず、今後の事業展開に不安を抱くようになってきたのではないでしょうか?
また、院外処方箋発行率が65%を超え、天井が見えてきた今、パイの奪い合いの様相を呈する「調剤薬局」業界の今後は、少なからず悲観的でさえあります。
薬局を変え、薬剤師を変え、薬局経営が変わることで、初めて、我が国の医療も変えていく端緒につけるのではないかと感じています。本学会では、薬局の新しいあり方を提唱し、そこで活躍できる薬剤師の在り方を作り出すことに注力して参りますが、それと同時に薬局経営が変わることは、日本の薬局業界が、そして医療業界が変わるきっかけとなる、最後のワンピースになるのではないかと考えていると講演いただきました。
シンポジウム II
在宅チーム医療における在宅医と在宅薬剤師の新たな連携
~医師は薬剤師に何を期待し、何を求めているのか~
7月20日(日)15:30~18:00 1階 大ホール
座長

狭間 研至(一般社団法人日本在宅薬学会 理事長

演者

長尾 和宏(医療法人社団裕和会 長尾クリニック 理事長
吉澤 明孝(医療法人社団愛語会 要町病院 副院長
加藤 泰司(かとう整形在宅クリニック 理事長
城戸 哲夫(医療法人思温会 思温クリニック医師
木内 祐二(昭和大学薬学部 薬学教育推進室教授
西村 元一(金沢赤十字病院 副院長

長尾 和宏(医療法人社団裕和会 長尾クリニック 理事長

 医師になって30 年が経過した。大変失礼ながら、今ほど薬剤師さんが必要だ、頼りになると感じたことが無く過してきた。外来診療ではジェネリック問題や服薬管理や禁煙指導、一方在宅医療では多剤投薬の減量、麻薬の服薬指導、胃ろう栄養など薬剤師さんのお世話になりっぱなしの毎日である。 街へ出る薬剤師と、出ない薬剤師に大別されてくるだろう。街へ出ると今まで見えなかったことが沢山見えて、面白くて(?)仕方がない。もし面白いと思えないなら、これからの医療者としては厳しくなるだろう。
 がんと認知症の時代である、と思っている。2 人に1 人はがんになり3 人に1 人はがんで死ぬ。一方、現在予備軍も含めて860 万人と発表されている認知症も近い将来、2 人に1 人になると想像している。いずれにせよ、今後の在宅医療の主役は、訪問看護師、歯科医、そして3 番目は薬剤師であると思う。3 番目は残念ながら、少なくとも医師ではなさそうだ。薬剤師さん、書を置いて街へ出よう、と講演していただきました。


吉澤 明孝(医療法人社団愛語会 要町病院 副院長

医- 看&薬- 介護福祉の密な連携なくしては、在宅緩和ケアは不可能である。と言うのが自分の持論であり、これは間違いない。昨今の診療報酬改定でも在宅で使える薬剤、点滴薬剤も含め充実してきた。在宅支援診療所の強化型の縛りもきつくなっている。在宅支援診療所・病院の要件の中に24 時間対応可能、24 時間対応訪問看護、連携病院(24 時間対応)がある。そして今回の改定で新たに地域包括診療料が現れた。その要件の中に24 時間対応している薬局と連携と言われている。しかし、当院近隣の調剤薬局では24 時間可能なところは大学病院近くのチェーン薬局など大手しかなく、薬剤師会加入薬局で24 時間可能薬局は近隣には少ないのが現状である。機能などハード面では、特に在宅緩和ケアとなると① 24 時間対応 ②点滴も含めた医薬品の充実 ③医療用麻薬製剤の充実 ④デリバリーシステムなどが要求されてくると考えられる。またソフト面では、①麻薬製剤の服薬指導:新薬が目白押しでありすべて指導できることが望ましい、型にはまった使い方だけではなく添付文書にない形で使用されることも多く医師との連携、カンファレンスが必要である ②患者だけでなく家族も含めた全人的ケアが必要でありそれを医療スタッフで情報共有することが必要である ③看取りを含めた対応が必要であり、在宅医によっては、自院で麻薬を置かず、調剤薬局に処方するのみの医師もいる。経口不可になった場合の対応など医師へのアドバイスができる必要がある。など上げるときりがない。それぞれについて今後地域性を含めて、地域行政、地域薬剤師会と医師会が連携して検討されることが必要であると講演いただきました。


加藤 泰司(かとう整形在宅クリニック 理事長

クリニックを開院してから現在まで300 人以上のお宅に訪問している。玄関から整然と片付けられた広い家から、かなり雑然として窮屈な家までその環境は様々である。独居老人、老老介護、息子や娘との二人暮らしなど、家族の状況も様々である。そこには患者の現在の生活があり、これまでの歴史がある。施設での在宅医療とも違った医療現場がそこにはある。そこで提供される医療も病院や外来、施設とは違ったものになる。
病院や外来では患者が来院し、医師を中心としたチーム医療が行われる。患者にとってはアウェイな環境である。ガイドラインが疾患ごとにあり、DPC に基づいた入院治療が一般的となっている。まさにEBM(Evidence-based Medicine)、根拠に基づいた医療が実践される。
在宅医療での他職種連携では、それぞれの情報を共有して、同じ目線でものが言い合える関係の形成が大切である。そのためには顔が見える関係を作ることが必要である。私のクリニックでは定期的に勉強会や懇親会を開催し、地域で顔の見える関係づくりを構築する機会になればと考えている。在宅医療に関わるこれからの薬剤師も積極的に地域連携の会や他職種との勉強会に参加し、他職種との顔の見える関係を作ってもらいたいと思う。医師に物申す薬剤師が増えることを切に願うと講演していただきました。


城戸 哲夫(医療法人思温会 思温クリニック医師

急性期病院へ救急車で搬送される多くの患者は急性期疾患ではなく、高齢者慢性疾患の急性増悪である。在宅主治医は急性期病院の救急医療にとってキーといえる。すなわち急性期医療本来の仕事を全うできるか、それとも地域で完結できる医療を背負わされてしまうのか、言葉は悪いが医療資源の無駄使いになるかということである。高齢者の慢性疾患にはもちろん死因第一位のがんや500 万人の認知症患者が含まれていることは明白である。この分岐点のトリアージに責任ある医師が介在すれば負の医療は是正される。終末期、看取りの医療にも急性期医療に対しては同様のことがいえる。また看取りを行う在宅医に医療の総合力とバランス、そして人間力が求められるのはいうまでもない。しかし、限られた医療ソースの中で地域の高齢者医療に医師はどれだけ参入できているのか。現状では主に24 時間体制と労力に見合わぬ診療報酬の二つが参入の足かせになっていると医師のアンケート調査結果でわかっている。外科医の本分野への参画は未だ少ないが、ここ数年施設へ訪問診療される外科医が増加している印象を私自身感じている。外科医のセカンドキャリアとしての在宅医の特性は、周術期管理や緩和医療に長けていることから前述のトリアージにも力を発揮することではないかと思っている。ご同行し協業していただいている在宅薬剤師の先生方へ。高齢者への特有な薬効、主要薬剤血中濃度のモニタリング、半減期、キレーション、等など目からうろこ状態で多くのことを学ばせていただいている。本高齢者の在宅医療において、薬剤投与のトリアージでは責任ある主役を担い、今後とも能動的参入とご指導をお願いしたい。薬剤師の力なくして在宅医は活躍できないと発表いただきました


木内 祐二(昭和大学薬学部 薬学教育推進室教授

 在宅医療をはじめとする地域医療では、多くの医療専門職が連携・協力して情報共有することで、質の高く、効率的な医療を実践することが望まれている。また、各医療専門職を養成する大学においても、各学部が連携して患者中心のチーム医療を実践する能力を確実に修得できる学習環境とカリキュラムの整備が求められている。
 医学部、歯学部、薬学部、保健医療学部( 看護・理学療法・作業療法学科) (1 学年約600 人) からなる医系総合大学の昭和大学では、大学の教育理念に基づき、患者中心のチーム医療を実践する医療人を養成するための教育に取り組み、大学を挙げて全学年にわたる段階的な学部連携型のカリキュラムを構築している。1 年の学部連携初年次体験実習などのチーム医療見学実習、1〜4 年の学部連携PBL チュートリアルでチーム医療の基盤を学習したのち、5 年では、附属病院の病棟で学部合同チーム(120 チーム) が同じ入院患者を担当する学部連携病棟実習を行う。6 年では、学部連携地域医療実習( 在宅医療実習) と学部連携アドバンスト病院実習を選択科目として実施している。
 平成27 年度から実施される改訂薬学教育モデル・コアカリキュラムでは、在宅医療、プライマリケア、チーム医療などの地域医療の学習が拡充される。こうした医療人教育の現在と将来を紹介し、今後の地域でのチーム医療への期待など発表いただきました。


西村 元一(金沢赤十字病院 副院長

 近年、病院における薬剤師の役割は“薬剤のプロ”として非常に重要となっている。特にジェネリック薬品が多くなってからは、薬剤について広範な知識を持つとともに専門性の高い知識を有する薬剤師の存在価値はますます向上している。また様々なチーム医療においても疾患や治療に関わるチーム以外に医療安全など薬剤師が必須の領域が非常に多くなっている。
 一方在宅医療においては周囲からのニーズを考えるとまだまだ薬剤師の力量が十分に発揮されているとは言えない。外部から見て、在宅医療における薬剤師が求められる役割としては少なくとも二つあると考えている。一つは在宅医療(介護)に関わる専門職との協働である。当然ながら今後の高齢者は生活習慣病など種々の薬物治療を受けている可能性が高く、薬剤師の出番は大きい。単に窓口業務だけではなく、他職種とのコミュニケーションをとりながら直接在宅に専門性を活かすことは色々な面で大きな意義を持つと考える。
 もう一つは病院薬剤師との連携である。病院と在宅では全く療養環境が異なる。そのような中でがんや糖尿病、脳卒中など薬物治療が重要な位置を占める病診連携が必須の疾患も少なくない。在宅薬剤師は在宅に関わる職種と病院薬剤師との間に入りうまく薬剤をアレンジするという重要な役割を持つものと思われる。
 在宅医療においては、患者自身が医療者の待つ病院に行き、病院という一つの空間の中で医療が行われるのと異なり、患者の生活する場に医療者が出向いて医療を行うという全く異なる様式であり、また患者ごとに関わる職種の所属施設や顔ぶれが異なることから、初めはコミュニケーションがとりにくい環境で開始される可能性がある。ぜひ日ごろから地域の多職種が集う会に参加することによりコミュニケーションをとりつつ薬剤師としての存在価値を示すことが重要であると講演いただきました。