学術大会2日目の様子
早朝より多くの皆様にご参加いただき、皆様の関心の深さを感じる印象的な講演となりました。
シンポジウム・共催・スポンサードセミナー、著名な先生方に大きな力をいただく講演となりました。
プログラム内容
座長 | 狭間 研至(一般社団法人日本在宅薬学会 理事長) |
---|---|
演者 | 長尾 和宏(医療法人社団裕和会 長尾クリニック 理事長) |
薬剤師さんは、「平穏死」に賛成でしょうか?また、協力してくれるでしょうか? 実は、在宅で数百人の平穏死を見守ってきましたが、薬剤師さんに助けてもらったことは数える程でした。しかし最近、薬剤師さんに助けられることが増えて来ました。自宅での抗がん剤治療やオピオイド使用。そして独居や認知症の人の増加があるからです。
がんになっても認知症になっても住み慣れた「地域」で居られたらいいですよね。そのためには薬剤師さんに手伝って欲しいことが沢山あります。穏やかな最期は、穏やかな生活、笑顔がある生活の先にあるものですと、講演いただきました。
スマホとITでつながる在宅地域連携
~早起きは三文の徳!現場で即効使えるアプリたち~
座長 |
原崎 大作(アクア薬局管理薬剤師) |
---|---|
演者 |
遠矢 純一郎(桜新町アーバンクリニック院長) |
地域の様々な職種をひとつにして、チーム力を最大限発揮していくには、お互いの顔が見える、気持ちのわかるつながりが欠かせない。その上で、患者さんの病状や想いを支えるために、互いの持つ情報はなるべく手間なくスムーズに共有し、いつも同じ方向を向いていなければならない。これまで地域連携にける情報共有は、主に電話やfax、郵便などを用いていたが、主に患者宅など出先での情報収集や発信が必要となることが多いことや、関係者それぞれが持つ情報を一元化することで、より包括的な対応が可能となるため、よりスマートな連携ツールが求められている。
こういったことを叶えるには、やはりIT の活用以外に解はないだろう。幸い、スマートフォンやタブレットは、モバイル環境である在宅にこそうってつけのデバイスになるし、クラウドという仕組みは、そもそも協業することに最適化されている。Facebook やTwitter、LINE といったソーシャルネットワークをはじめとして、その気になれば便利につながるサービスが、誰でもすぐに、しかもほとんどタダ同然のコストで使える今のネット環境は、アイディアを実現するのにかかるリスクやハードルを限りなく低くしてくれる。今回は、在宅医療の現場での情報連携や業務効率化、教育の実践とともに、最新のアプリやWeb サービスについての情報を交えながら、これからの地域医療に欠かせない誰でも簡単便利に使えるスマートフォンやIT 活用術について講演いただきました。
「薬剤師3.0の意義と課題」
~超高齢社会が求める新しい薬剤師像実現に向けて~
座長 | 狭間 研至(一般社団法人日本在宅薬学会 理事長) |
---|---|
演者 |
三輪 亮寿(三輪亮寿法律事務所 所長) |
未来の薬剤師職能確立の成否は、「薬剤師固有の二本のフィジカルアセスメント(PA)」が柱になることは疑いありません。
「薬剤師固有」とは、文字通り薬剤師に固有なことであって、薬剤師固有なPA とは、医師のPAとも異なり、看護師のPA とも違う、まったく薬剤師だけのPA ということです。つまり「薬剤師ならでは」のPA の意味です。
但し、薬剤師以外の者でも実施すること自体は法的に禁じられていませんが、薬学的知識と技能の不足から社会的には到底許されるものではありません。
「二本のフィジカルアセスメント(PA)」の1 本目は“今すぐできるPA”であり、2 本目の柱は“薬剤師史上空前のPA”です。
1 本目の“今すぐできるPA”は、従来の「薬剤師によるボディータッチは全て違法」という誤解を完全に払拭することから始まります。「薬害防止を目的とした薬剤師のボディータッチ」は従来から100%適法だったのです。最近のイレッサ事件を始め、過去の薬害事件の多くは、薬害防止目的のPA の不足によるものです。その臨床現場は医師と看護師のセットに任されており、薬剤師は不在だったのです。だからこそ、今からの薬剤師による臨床現場での活躍によって職能確立が可能になるのです。
2 本目の“薬剤師史上空前のPA”は薬剤師の積極的な臨床活動を奨励する「通知」平成22 年医政発0430 第1 号に則ったPA です。医師による決定処方せんを受け取った後から始まった従来の薬剤師業務とは異なり、「プロトコール(その中心は決定処方せん)を医師と作成・合意し、医師と協働して実施する」ことを「通知」は求めているのです。薬剤師史上空前の大きな課題ではありますが、限りなく開ける薬剤師の新しい世界が期待できます。当面は入院における医療から始まるにしても、その流れは外来から施設へ、そして在宅へと続きます。そこにこそ、正に超高齢社会を睨んだ在宅薬学会の存在理由があるのだと思うと講演いただきました。
薬剤師が医療人として法的に認められ、医薬分業が進められ、6 年制薬学教育制度への教育改革がなされ、6 年制薬剤師教育を受けた薬剤師がすでに3 回社会に輩出されている。一方、薬剤師職能をめぐる種々の問題も湧き上がっている。当認証機構は、各種薬剤師生涯学習制度の評価を行い、認証を進めており、薬剤師の社会での活動のあり方に関しても提示してきている。その中で「求められる薬剤師への道程」を提示し、薬剤師の基本的な目標は、「真に人と社会に役立つ」ことであり、薬剤師一人ひとりが、薬の倫理を基盤として、あらゆる場面で、正しい評価・判断に基づく最善の行為を、責任をもって実践することとしている。薬剤師と関連する各種の法律や制度は、改正される頻度も高い。また新規作用機序に基づき開発され、薬物療法に適用される医薬品の出現も目覚しい。このような中で、薬剤師にとっては何を変革すべきなのか、社会に求められている機能は何かなど、時勢を認識した上で自らの資質・特質の再構築をすすめるとともに、さらに人材と実績作りへと展開することが必要ではなかろうか。
薬剤師が、社会から求められている役割を果たしていくためには、社会の動向、時勢を正しく認識し、変革の意識を高めていくことが必要であろう。さらに、薬剤師が専門職を発揮していくためには、持続的な学習活動を行っていくことは言うまでもなく、また指導者や責任ある立場にある者は、薬剤師の学習環境整備に努め、支援していくことが望まれる。
薬剤師がこれらを通して、自ら率先して行動し、変革していくことは、身近な存在として社会から信頼され、求められる薬剤師への道程となるのではなかろうかと講演いただきました。
社会保障制度改革国民会議報告(平成25 年8 月6 日)において、超高齢化の進展により疾病構造は大きく変化し、必要とされる医療、医療ニーズは、「病院完結型」から、地域全体で治し支える「地域完結型」に変わらざるを得ない現状にある。「医療から介護へ」、「病院・施設から地域・在宅へ」の観点から、医療の見直しと介護の見直しを一体として、医療機関の機能分化・強化と連携、在宅医療の充実等を図り地域包括ケアシステムづくりの推進が方向性として示されている。まさに21 世紀型の医療提供体制の構築が待ったなしの現状にある。
一方、医療の質の向上と安全の確保のために、チーム医療を確立し推進していくことが重要であることも共通の認識となっている。その中で、薬剤師は、薬剤に関する専門職として薬学諸学を基盤とする独自の視点をもって、患者の情報と状態を把握したうえで、医薬品の適正使用に基づき、医薬品による副作用や薬害の回避・早期発見等も含め、薬物療法の安全性と有効性の確保に貢献することが求められている。
今後、医療機関内チーム医療と地域包括型チーム医療の連携において、薬剤師は薬物療法の質の確保に貢献することが求められる。病院薬剤師と薬局薬剤師が、的確な薬学的管理やケアを実践して良質な薬物療法を提供するためには情報の共有化が必須となる。情報共有の方法は種々あると思われるが、地域の状況に相応しいシステムの早期の構築を期待したいと講演していただきました。
近年の医療技術の高度化や医薬分業の進展など、薬剤師を取り巻く環境は大きく変化しています。また、薬剤師への期待も、適切な服薬指導による薬物療法効果の最大化や、副作用リスクの最小化など、モノの供給という役割から、薬学的管理に基づく医薬品適正使用の推進のための人的な役割へと大きく変化しています。また、チーム医療・在宅医療への参画による薬物療法への主体的な貢献や、適切なセルフメディケーションの推進機能の担い手としての役割も期待されています。しかしながら、その一方で、最近の医薬分業に対する批判や、薬剤師の顔が見えない等の批判も根強く残っているのも事実です。
地域でも、医療機関でも、期待される能力と実行力を持った薬剤師の先生が、セルフメディケーションの推進、在宅医療の推進などにおいて、患者ケアや医療費の削減に明確なエビデンスを打ち出し、それを大きく主張すること、つまり、薬剤師の臨床活動モデルとして現場から発信することが必要であると感じています。その一つの成功例を目にした他のやる気のある薬剤師の先生がそれを真似し、若しくは改良し、さらに情報を発信することにより、やる気のある薬剤師の方々の活躍が広がっていくことを期待するとともに、そのために、我々行政の立場からも努力していきたいと思うと講演いただきました。
公益社団法人日本薬剤師会会長 山本信夫先生は昨年から既にお決まりだった海外ご公務がおありでしたので代理で、副会長乾英夫先生にご登壇いただきました。
乾英夫副会長には地域薬局の変遷から薬剤師の果たすべき役割を日本薬剤師会が2013年4月に公表した将来ビジョンに基づいて熱くお話をいただきました。
すぐに役立つ経口補水療法のノウハウ
ーこの夏、あなたは正しい熱中症対策の指導ができていますかー
座長 |
狭間 研至(日本在宅薬学会 理事長) |
---|---|
演者 |
谷口 英喜(神奈川県立保健福祉大学 保健福祉学部 栄養学科 教授) |
私たち医療者は、一般市民に対して熱中症の怖さを伝えるだけではなく、「熱中症は死に至る恐ろしい疾患であるものの、適切な対策で予防が可能であること。万が一、熱中症にかかっても、適切な対応で悪化を防ぐことが可能な疾患であること」を十分に啓発する必要がある。そして、私たち医療者は、熱中症の病態をよく理解して熱中症に対する正しい対策の指導をする立場でもある。例えば医療者は、一般市民から、「塩飴をなめること」、「冷たい食べ物をたべること」、「おでこを冷やすこと」、「お水を沢山飲むこと」は、熱中症対策に効果的であるかという質問があった場合には科学的根拠(エビデンス)に基づいた回答を提示すべきである。最近、熱中症には経口補水療法(ORT)が効果的であることが知られてきた。ORT とは、脱水症の治療として経口補水液を用いる補水方法である。熱中症の病態を理解するための基礎知識を身につけ、経口補水療法のノウハウを紹介し講演いただきました。
在宅での疼痛緩和
座長 |
稲葉 一郎(株式会社ハートフェルト代表) |
---|---|
演者 |
関本 雅子(関本クリニック院長) |
平成24 年に改訂された「がん対策基本計画」の中では「がんと診断された時からの緩和ケア」と、初期からの緩和ケアの大切さがはっきりとうたわれており、当院にもがん治療中の方がたくさん通院しておられます。
癌の症状緩和に関する考え方は、施設型ホスピスも在宅型ホスピスも基本的には変わりませんが、在宅緩和ケア13 年の経験の中で気づいた疼痛緩和の「こつ」をについて講演いただきました。
地域における医療・薬剤師の存在意義
~薬剤師は市民の幸福に貢献出来るのか?~
座長 |
西村 元一(金沢赤十字病院副院長) |
---|---|
演者 |
森田 洋之(医療法人ナカノ会 ナカノ在宅医療クリニック医師) |
夕張市は、2007 年に市の財政が破綻し、市内唯一の市立総合病院も廃院、医療崩壊が起こった。しかし、市民が予防に務めたこと、また病院医療への依存から脱却したことで、各疾患の死亡率は減少し、医療費も減少した。国全体の借金が1000 兆円を突破し国家財政への不安が影を落とすなか、高齢者も今後は倍増し、いずれ現在の夕張並みの高齢化率(45%) になるという。財政破綻・医療崩壊・高齢化率日本一・豪雪地帯の4重苦の夕張市民が死亡率の低下と医療費削減を勝ち取ったことは、日本の明るい未来を灯してくれているといえるだろう。では、その中で医療従事者として薬剤師はどのような役目を持ったのだろうか。我々は、地域のなかで、どうしたら住民の幸福に貢献できるのか、夕張の事例を通して講演いただきました。
医療者を動かすインセンティブプレゼンテーション
座長 |
岸 雄一(上尾中央医科グループ上尾中央総合病院) |
---|---|
演者 |
杉本 真樹(神戸大学医学部講師) |
薬剤師が知っておきたい在宅現場で使える臨床推論
-どう判断し医師にどのように伝えるのか-
座長 |
狭間 研至(一般社団法人日本在宅薬学会 理事長) |
---|---|
演者 |
岸田 直樹(一般社団法人Sapporo Medical Academy代表理事
) |
「6年制薬学教育と薬剤師3.0」
~6年制卒薬剤師が示す薬剤師のパラダイムシフト~
座長 | 緒方 宏泰(日本アプライド・セラピューティクス学会 会長) |
---|---|
演者 |
丸山 徹(熊本大学薬学部 薬剤学分野 教授) |
6 年制薬学教育がスタートして8 年が過ぎ、新制度からの卒業生が3 回目を迎えるようになった。本学の場合、6 年制導入以前から、おおよそ90% の学卒生が大学院に進学しており、その過程でも臨床実習を行っていたことから、実質的には薬学教育6 年制を行っていたといっても過言ではない。そこで、6 年制導入前後での教育効果の変化について考えてみると、5 年次の実務実習における医学生と共同で実施されるポリクリ実習( 薬物治療学分野: 中川和子教授担当) が高い学習効果をあげているように思われる。その反面、課題発見能力やその解決能力が見劣るのではないかといった現場からの意見も寄せられている。では、6 年制卒薬剤師が目指すべき将来像はどのようなものであろうか?一つは、処方提案ができ、薬物治療の効果や有害事象を網羅的にモニタリングし、その後の処方最適化に貢献できる薬剤師が提案されている。さらに最近では、院内及び在宅にて、薬物治療における医薬協業が行われるようになっており、この取り組みは6 年制卒薬剤師によって、より積極的に展開すべきである。加えて、個人的には、治療業務での協業に留まるのではなく、臨床研究においてもお互いの特徴を補完しつつ医薬連携が機能することで、時間や地域をこえて多くの患者の薬物療法に貢献できることを望みたい。この点は、昨今の問題となっている大規模臨床試験の反省からも重要であると思われる。さらに、患者の状態を、有害事象だけでなく、全人的にきめ細かく観察できる能力を醸成することで、ドラッグリプロファイリングやドラッグリポジショニングのシーズ探索においても貢献できる薬剤師の登場を期待したいと講演いただきました。
日本の薬学教育のパラダイムシフトというべき4 年制から6 年制への大きな改革が行われ、6 年制教育を受けた薬剤師は2012 年4 月から今年で3 年目を迎えました。まだ、3 回しかと思われる方も多いでしょうが、送り出す側の大学の教員としては、長い道のりであったとの感があります。今回、このテーマを頂き改めて、現場の評価と期待・要望、学生が目指す目標の現状を把握して国民から評価されるに値する教育目標を考える良い機会になったと感謝しております。2015 年からは薬学新モデル・コアカリキュラムが始まります。これまでの薬局・病院での「実務実習モデル・コアカリキュラム」は「薬学臨床」と名称が変更して薬剤師の積極的貢献を目指した「在宅医療・介護への参画」が明示されました。また、新たに、薬学研究(卒業研究)が独立した項目になります。これまで以上に、学生のうちから地域社会と関わりを持つことが求められ、教育にしっかり組み入れなければなりません。本シンポジウム臨床系教員のセッションでは新モデル・コアカリキュラムも視野に入れ、地域社会で行った学生の卒業研究の実例を紹介し、薬学教育のパラダイムシフトの検証をしたいと思います。薬剤師免許を持たない薬学生の臨床研究には制約がありますが、薬剤師の教員がサポートすることで、学生は地域住民の健康支援に貢献した成果を数値で示すことができました。数値の比較は誰にでもわかりやすく理解できます。6 年間の教育で修得した知識・技能を生かして、患者・地域住民に貢献できる環境は今後、ますます広がっていくと思います。自己満足に終わることなく、“やったこと”を客観的に評価する能力を私はこの卒業研究で学生のうちに培っていきたいと考えています。研究マインドを学生のうちに培い、卒後は“科学的業務の構築ができる薬剤師”になって欲しいと願っております。そのためにも、我々教員は卒業後も学生がいつでも相談でき、さらに、共同研究ができる教育環境を整備しなければならないと考えていると講義をいただきました。
大学が病院・薬局等と組織的に連携して新しい教育プログラムを構築し、指導的薬剤師の養成および実務実習の充実を目指して今年で5 年目となる。その過程では、高度な教育力・技術力を有する全国の薬系大学が核となり、我が国が抱える医療現場の諸問題等に対して、科学的根拠に基づいた医療が提供できる優れた薬剤師を養成するため、現在も試行錯誤の教育プログラムを実践・展開している。6 年制薬学部においては薬学教育モデル・コアカリキュラムに基づいた独自の教育が今後の薬剤師の資質向上に多様に反映される。また、文部科学省も大学に対して、在宅医療など地域に密着し、チーム医療に対応できる薬剤師の養成に向けた教育の充実が必要であると提言している。
殊に、全国14 国立大学薬学部では平成22 年度より社会的ニーズに対応し、広範な職域で指導的な立場で活躍できる“先導的薬剤師”養成プログラムの共同開発に取り組んできた。これら教育プログラムは学部教育のみならず、大学院博士課程での発展型や、さらには薬剤師の多様な職能を進化させ、活躍の場を拡大することも期待されている。薬剤師の実践能力をより強化し、チーム医療、地域医療へ貢献するためには教育と臨床が連携した高度医療人養成プログラムが有効であり、本学会でも様々なセミナー・研修会が繰り広げられている。
本シンポジウムでは大学が果たすべき高度医療人養成を目的としたミッションと大学と地域薬剤師との連携教育について講義いただきました。
近年、在宅療養を選択するがん患者が増えたことで在宅療養支援における医療依存度が高くなってきた。この在宅がん患者の療養支援を行うには、がんに伴う痛みを和らげるため、医療用麻薬を用いた適切な緩和ケアが必要となる。そのためには医療用麻薬の適正使用に向けた地域の薬剤師と看護師との連携が重要で、さらに副作用を和らげる支援を行うには、介護・リハビリテーション・栄養・口腔ケア等に係る多くの医療と福祉・介護の専門職によるきめ細やかな療養支援体制(在宅チーム医療体制)が整備されていることが不可欠である。このような新しい時代の医療体制に対応できる専門人材を育成するため、大学教育の果すべき責務は大きい。大学教育に期待されていることは地域社会の多彩なニーズに対応できる教育改革を地域の大学群が共同して展開していくことである。したがって、医療・福祉・保健分野の学部・学科を持つ大学では、異なる専門分野の教育者間のコミュニケーションを通して大学間連携による多職種協働教育を推進していく必要性がある。
本コンソーシアムの大学間連携在宅チーム医療教育を紹介することを通して、6 年制卒薬剤師が示す薬剤師のパラダイムシフトについて講演頂きました。
2006 年に始まった6 年制薬学は、本年3 月に第3 期生を社会に送り出した。6 年制薬学教育改革は、まだ困難な課題が山積し苦難を伴っているものの、概ね良好に進展している。各大学における薬学教育の質を評価するために、現在、毎年一定数の大学について、薬学教育評価機構による審査が始まっている。また薬学教育モデル・コアカリキュラムが昨年12 月に改訂され、各大学では2015 年度の新入生から適用するために準備が進められている。演者は、31 年間大学病院薬剤部に勤務し、その後薬科大学に移って4 年余になる。当初、大学と医療現場での6 年制薬学に対する感覚的なギャップを痛感していたが、今では大きく改善してきた。その原動力の一つは、長期実務実習に拠るところが大きい。本学では教授から助教まですべての教員が、実務実習の訪問指導を担当し、学生や指導薬剤師と面談しており、また教員にとってそれが医療現場の臨場感、使命感に触れる機会となっている。
医療現場では、医療安全や医師不足に端を発してチーム医療の推進が叫ばれ、薬剤師による薬物療法支援が求められている。2012 年の診療報酬改定において「病棟薬剤業務実施加算」が認められたことは、これまでの病院薬剤師の活躍が評価された証であるが、今、医療の質や経済性が求められる中で、これからは薬の専門家としての力量が問われることになる。更に2014 年の改定では、在宅医療を担う医療機関、薬局の量的確保に力点が置かれており、薬剤師の新しい業務展開が加速されるであろう。これら新しい診療報酬体制に応えるためには、医療現場における豊かな経験と、薬剤業務の科学的基盤が重要な礎になると思われる。今後毎年6 年制の質の高い薬剤師が、病院や薬局に加わるに伴い、従来にも増して、薬剤業務の科学的基盤の構築が進むであろう。一方、大学では教員の医療現場に対する認識が一層高まり、大学からの情報発信も増えるであろう。このような薬学教育・研究の展開は、医師・看護師などの医療関係者だけではなく、安全・安心を求める患者からも薬の専門家として薬剤師に対する信頼を高める要因になるであろう。
薬学6 年制の成功の鍵、それは、大学と医療現場(病院薬剤師、薬局薬剤師)との連携強化にあると思う。大学教員と医療現場の薬剤師が一枚岩となって科学的根拠に基づく医療薬学、臨床薬学の確立に向けて邁進するとともに、Science(科学)、Art(技術)、Humanity(人間性)のバランスのとれた人材育成を推進することによって、国民が真に納得するような薬学6 年制の成功に繋がるものと考えると講演いただきました。